PID制御とは

温度調節動作について PIDとは

電気炉のユーザーの皆様が望まれる、温度制御とはどのようなものでしょうか。一般に、以下の項目があげられます。

  • 目標の温度設定値に対して出来るだけ早く、または設定した時間通りに到達すること。
  • 温度到達の際、行き過ぎ(オーバーシュート)がほとんど無いこと。
  • 目標の設定温度通りに安定していること。
  • 外乱があってもすぐに復帰すること。

以上全てを満たす温度制御結果を得ることは難しいのですが、温度調節動作の種類や概略を知っておけば、少しでも理想の温度制御に近づけるものと思います。


1.オンオフ動作

 一番単純な調節動作で、身近な例では電気コタツなどのバイメタル式のオンオフ動作があります。つまり、目標温度に到達するまで100%の出力で上昇し、設定温度を超えると 0%(オフ)になって温度が下がる事で調節をします。このため、目標温度からの行き過ぎや、戻りすぎが発生しやすく、サイクリング現象と呼ばれる、波を打ったような制御結果になりやすいもので、精密な温度制御には不向きとなります。長所としては、構造が簡単なために温度調節計、操作端ともに安価なもので構成できます。電気炉の過昇温防止用の警報計はこの動作です。

オンオフ動作
二位置制御

2.PID動作

前項のオンオフ動作の欠点を解決する方法としてPID動作があります。まず、PIDのPとは Proportional(比例)、IはIntegral(積分)、DはDerivative(微分)の頭文字をとったものです、微分、積分というとちょっと難しいという先入観がたちますが実際使用者に計算問題を出されるわけではなく、温度調節計内部での演算処理と考えてよいものです。P動作は単独でも調節動作として成り立ちますが、I,Dの各動作は単独では動作せず、P動作との組み合わせとなります。


P動作について

Pは%を単位とします。温度調節計の温度入力幅(入力レンジ)を基準として、その何%を比例帯として設定するかを決めます。その比例帯の温度範囲の中心は目標の設定温度となります。例えば、0℃~1200℃の温度入力幅の温度調節計で、比例帯(P)を10%、設定温度を800℃とすると、800℃を中心として120℃幅、つまり740℃から860℃までが比例動作の範囲となります。

比例制御
P動作

 そして、その温度範囲内で調節出力は入力の温度と逆比例して出ることになります。740℃まで調節出力は100%、860℃以上では、0%、実温度が設定温度と同じ時には、50%となります、通常では目標の温度はヒーターの能力の範囲内で実現できるよう、容量の設定がなされているわけですから、この場合、比例帯のどこかで均衡が取れることとなります。
P動作はオンオフ動作に比べて、行き過ぎ(オーバーシュート)や戻りすぎ(アンダーシュート)、サイクリング現象も少なくなります。しかしながら、原理的にオフセットと呼ばれる、目標温度との偏差を生じることになります。また、Pの値が大きすぎると、目標温度から離れた温度から比例動作が効きだすために、到達時間がかかることになり、オフセットも大きくなります。オフセットを少なくしようとして、Pの値を小さくしすぎると今度はオンオフ動作に、近づいて、サイクリング現象が発生してしまいます。

I 動作

 P動作では、温度偏差(オフセット)は、避けられませんが、これを解消するものが、P動作にI動作を組み合わせた、PI動作となります。温度偏差している、時間の積み重ねに比例した、調節出力となり、結果的に温度偏差が引き戻されることになります。Iは、時間積分ですので、設定の単位は、分または秒となります。Iの定数は、数値が小さいほど強く作動し、温度偏差は短時間で引き戻しするように動作しますが、サイクリング現象が起きやすくなります。逆に数値が大きいほど、弱く作動し、温度の引き戻しに時間がかかるようになります。また、PI動作では外乱等による急激な温度変化には、対応できません。

比例積分制御
PI動作

D動作

外乱などによる、急激な温度変化に、すぐに反応し、出力を修正するのが、D(微分動作)の役目です、温度上昇または下降の変化スピードに比例した動作で、設定の単位は分または秒となります。 ここでは、数値が大きいほど、強く作動し、温度変化に対する応答性が良くなりますが、目標温度へ昇温の際に温度上昇を抑制する働きもする為、目標値到達までの時間が長くかかってしまいます、反面これは行き過ぎも防ぐ効果もあります。数値を小さくすると、反対の現象が現れ、目標温度到達までの時間は早くなりますが、行き過ぎも大きくなる傾向が出てきます。また、PD動作では温度偏差を収束させることは出来ません。

比例微分制御
PD動作

PID動作

 上記の、P動作とI動作、D動作を組み合わせたものがPID動作となります。つまりP動作で温度の波打ちを解消し、I動作で温度偏差を解消、D動作で外乱に対してすばやく反応し、理想的な温度制御が可能となるものが、PID制御となります。弊社のご提供する電気炉の温度制御にはすべて、PID制御の温度調節計が採用されています。このようにオンオフ動作よりも優れた制御動作が可能となる、PID動作ですがその設定を誤ると、思うような制御結果を得ることが出来ません。

PID制御
PID動作

また、動作的に相反する結果が生じることも有り、制御対象に対して、何を優先に考えるかということも、ユーザー側で決めなくてはなりません。したがって、PID定数の各設定値を、手動で行うことは、ある程度の経験が必要となります。しかしながら、最近ではオートチューニングと呼ばれる、PID定数を自動的に見つけることの出来る温度調節器も増えてきました。実際的にはまずオートチューニングでPID定数を見つけ、制御結果に不満があれば、上記の各動作の特徴を知った上で、少しずつ、設定値を修正すればよいことになります。(オートチューニングも万能とはいえないこともあります。)

以上、電気炉等のご使用に際して、少しでも参考になれば、幸いです。


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